

子どもと一生、 関わっていく。
周囲からの猛反対。でも自分の意志は固かった。

この仕事を目指す前、実は障がい者福祉の方に進もうと思ってました。小学校の時に、障がい学級の子との交流が結構あって、近所のじゃり道や校庭で一緒に遊んだりしてたんですけど、そこの子達がほんとにかわいかったんですよね。
進路転換のきっかけは、大学を目指して受験勉強中の夏。たまたま高校から通っていた個別塾で、小学生の子ども達のキャンプの手伝いを頼まれました。気晴らしになるかなと軽い気持ちで参加したんですけど、その時、何でかわからないけど、ビビッときたんですよね。「これだ」って思って。そこで、保育の道に進もうと決めました。
専門学校では、勉強よりも遊んでばかりいました。それでも、当時の野望の一つが「自分の園を持ちたい」。だからそのためにはまず資金をためるために公立に行こうと思いました。非常勤として働きながら、勉強して、片っ端から公務員試験を受けてたんですよ。その中で唯一受かったのが、静岡市の公務員。まったく縁もゆかりもない土地だから、正直迷いましたけど、行くことに決めました。好きに色々やらせてもらえたし、自分で受けたい研修を受けるために全国各地に行ったり、色々な団体を立ち上げたり…活動的な日々を過ごしていましたね。
転機が来たのは公立に勤めて10年目の時。もともと専門学校時代からの友人が、グローバルキッズで施設長をしていて、会う度に話を聞いてました。「うちの社長っていうのは、凄く熱い男なんだよ」って。そんなに言うなら一回合わせてよって言っていたら、本当にそれが実現した。その時に話をきいて、そもそも、子どもと関わる仕事って素晴らしいなと感じて起業したと聞いて、単純に、それってすごいなって思いました。でもまさか、その時は入社するなんて思わなかった。数ヶ月後…タイミングが色々重なって、入社することになりました。
もう、周囲からは猛反対でしたよ。それはそうですよね。自分でも、バカだと思います(笑)当時自分は、全国の男性保育者連絡会で、静岡県の中部代表もやってたし、静岡はまだ公立が中心で、株式なんて参入は絶対許さないという時代。そりゃあもう、相当な反対でしたよね。ただ、保育士として経験を重ねてはいたけれど、日々の保育の中で「本当にこれでいいのか」という気持ちが心のどこかにずっとあったんですよね。大人が主導で一斉に子どもを動かしたり、発表会なんかも、子どものためよりも、保護者に見せることを目的にやっているように感じてしまうこともあって…本当に子どもを主体にした保育園をつくりたいと思っていた。すべてタイミングや不思議な縁が重なって、今ここにいる感じですね。
職員とともに、手探りですすめる園づくり。
入社した年に、オープニング園の施設長として園の立ち上げに関わりました。自分は初めての施設長だし、職員も経験や年齢はバラバラ。そんなスタートの中、まずは自分の想いを伝えるところから始めようと思いました。こういう保育をしたいという事を自分で紙に書いたり、参考になる本をコピーして渡したり。
でも、最初はブーイングもありましたよ。「言ってることはわかるけど、やり方がわかんない」とか「会社はどうしてこういう決まりなんだ」というような事をケンカ腰で言う人もいた。どうしても、保育のやり方も含めて、前の園や今までの経験に引っ張られてしまうんですよね。

自分も最初は、この会社が初めてだったから、すべてが手探りでした。その中でも、保育のことに関しては、極力口出しをしないようにしてきました。施設長である自分が、個人の価値観を変えようとするのは無理だし、そうしたくはないので、まずは、職員の話すことは一旦受け止めるようにしてきました。出来るだけ、それぞれの欲求を満たしてほしいと思っているんです。ただ、「今この園では、何を一番大事にすべきか」という根底の想いは、伝えつづけなくてはいけないと思ってます。自分の中にも理想の形があるので、一人ひとり個性のある職員と一緒に園をどう作っていくかは、今も悩みどころといえば悩みどころではありますね。
施設長としての業務や、会議等で外出の機会が多くなり、前ほどは現場に入れなくなってるけど、現場が一番大切だと思う気持ちは変わらないです。だから、現場と子どもを知るために出来ることはしたいと思ってます。例えば朝は毎日開園から9時まで、掃除しながら正門の前に立って子ども達や保護者を迎えて、その後は全クラスをの様子を見に回るようにしています。そうやって園の様子を少しでも把握しておけば、何かあった時も職員をフォローできるし、保護者とも声をかけあえる関係性が作れる。そういうことを日々積み重ねている感じですね。
子どもを真ん中に。その先に大人もやりたいことを実現する。

子どもを真ん中にすること。保育をする上で、これが基本だと思います。うちの園で大切にしているのは「主体性」と「見守ること」。
例えば、行事なんかも、4、5歳は子どもミーティングというのをやって、何がやりたいかを子どもで話し合うんですよ。例えば、今年は夏祭りのお神輿に何を飾るかも子ども達自身が考えて、結果、ザリガニとか蛙になった(笑)それって、その時、子ども達が、ザリガニ釣りをしたり、生き物にふれることが楽しかったからだと思うんですよ。
子どもミーティングは毎日のようにやってます。例えば、クラスの中で、AちゃんとBちゃんが喧嘩して周りの子達が、困って見ていたとしたら、子ども達で集まって、そこで話し合いの場をつくるのもありだと思っています。そういう時って、まずは子ども達もお互いが一方的な想いしか言わないんだけども、次第に相手の気持ちを受け入れるようになってくんですよ。そういう事を日々繰り返していくと、段々「私はこうだからこう思うよ」って理屈をつけて話すようになってくから、凄く面白い(笑)
基本的には、自分で考えて行動できるということが、生きる力かなって思ってて。早期教育がとにかく大事みたいな話もあるけど、今は多くの事が機械でもできてしまう。そこで結局最後に残るのは、人と人との関わり。やっぱり人生色々あるじゃないですか。でもその中で「自分はどうしたいのか」とか「どうしたら仲間とうまくやれるか」ということを、自分で考えて行動できるっていうことが一番大切だと思う。
今は大人も含めて、その力が弱まってる気がするけど、社会にでても、絶対その力は必要なわけで。そう考えると、結局、毎日の生活の中で、大人・保育者が主導になるのは、全く意味がないと思うんですね。子ども達がどう考えていて、今どうしたいかを大人が探って、それを感じて、その環境を用意する。そして、その中で大人も、自分達がやりたいことを実現していくっていうのがベストだと思いますね。まだまだ課題は多いけれど、まずは今の園をしっかりつくっていきたいです。
あなたにとって輝いた大人とは?
「子どもに対して、とことん本気になれる人」
自分の仲間の中にも「そこまで本気になれるのか?」って位本気で子どもと関わる人がいます。そういう人は尊敬します。自分もまだ模索中の日々ですが、もう保育で一生いくっていうことは決めたので、日々スキルアップしていかなきゃならないと思っています。「子どもと関わることってこれだけ楽しいんだ」ということを多くの人に知ってもらうにも、保育士の社会的地位向上を目指すにも、やっぱり自分達の保育の中身がともなっていかないと上手くはいかないと思うんです。まずは自分達保育者が日々学び続けることが大切。その先に、今の保育の在り方を良い方向にもっていけるように、少しでも役立てるようになりたいと思ってます。
